
カリーヴルストはドイツの有名な料理だね!



その通り。でもこの作品の中心には、ある恋が….
今回ご紹介するのはウヴェ・ティム(Uwe Timm, 1940-)の『カリーヴルストの発見』について。
カリーヴルストといえば、こんがり焼いたソーセージにソースをかけ、カレー粉をふりかけた絶品。僕もフライドポテトを添えてよく食べる。
ドイツ人の愛するこの料理が、どのように生まれたのかをめぐる物語だが、読んでみればそれは恋のストーリー。いい意味で不意をつかれた。
映画化もされ、ドイツにて人気のこの作品。あらすじに入る前に著者についての情報から見ていこう。
著者について


ハンブルク生まれのウヴェ・ティムは、幼少期に読解力に難があったようだが、ある国語教師との出会いから、彼は読書に目覚める。
父が営んでいた毛皮商の学びを終えたのち、彼はミュンヘンやパリにて学び、結婚後に1971年に博士号を取得。
1960年代に起きた西ドイツの学生運動を主題とした『暑い夏』(Heißer Sommer, 1974)を通して、文学界の注目を集めることに成功。
今回紹介する『カリーヴルストの発明』は彼の代表作であり、20以上の言語に翻訳されることに。日本では浅井晶子による翻訳『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』も。
あらすじ
語り手が12年前の子供の頃、ブリュッカーという女性の屋台でカリーヴルストを最後に食べたことを回想するシーンから物語は始まる。
この語り手はブリュッカーがカリーヴルストの発明者だと信じて疑わなかった。ある日彼は彼女のもとを訪れ、彼女からカリーヴルストがどのように誕生したかを聞こうとする。
ブリュッカーが話し始めたのは、第二次世界大戦敗戦間近の1945年のこと。当時ハンブルクの食糧庁で働いていた彼女は、元海軍所属の兵士ヘルマン・ブレーマーだった。
彼らが知り合ったのは映画館でのことだったが、突如空襲警報が鳴り始める。警報が終わり、二人はブリュッカーの部屋に向かうが、その後ブレーマーが帰隊せず…。
Point
あらすじから察することができるように、物語のメインはこのブリュッカーという女性と、ブレーマーの恋愛関係。
ここからは、作品のポイントについていくつか紹介していくこととしたい。ネタバレも含むので、読んでみたい方はご注意。
外部からの隔離


ブレーマーはブリュッカーの部屋を訪れたあと、そのまま彼女の部屋に住み込み、衣食住を共にすることになる。そこには肉体的な関係もあった。
戦争が終結したあとも、ブリュッカーはブレーマーにそのことを告げることはしない。もちろん、それは彼が軍から逃れる必要がなくなり、彼女のもとを去ることを恐れたため。
外界から隔離され、貧しい中で人々が痩せていくなか、それとは対照的に太っていくブレーマー。真実を伝えれば、彼は自由となり喜ぶかもしれないという期待もあった。
その葛藤の中でブリュッカーが、どのように行動していくのかを意識ながら読みすすめてみることをオススメする。
カリーヴルスト


ブリュッカーの恋模様も重要だが、物語の主役はなんといってもカリーヴルスト。
カリーソースが生まれるエピソードは、ブリュッカーが運んでいたケチャップとカレー粉が落ち、偶然に混ざったという単純なもの。
しかしこれには、去っていったブレーマーのことで彼女の頭がいっぱいであったことや、その背景にあった戦後の食糧難をはじめとする苦境など、さまざまな要因が関わっている。
これらのことが、主人公に対して物語る老ブリュッカーの思い出話として描かれるという、枠物語の形式をとっていることも面白いポイントだ。
さいごに
僕がいま住んでいるドイツでこの作品を読むと、とてもカリーヴルストが食べたくなる。
ドイツのソウルフード的な立ち位置を占めるこの食事を、戦間期の様子や恋愛と絡めて扱うという、著者ティムのアイデアが光る作品だった。
まだ僕はこの作品の映画版を観ていないので、近々チェックしてみることとしたい。




