【ドイツ文学】ベルンハルト・シュリンク『朗読者』〜「読むこと」で語る愛!

『朗読者』の文庫版に付されたErnst Ludwig Kirchnerによるノレンドルフプラッツの絵

今回ご紹介するのは、ベルンハルト・シュリンクの代表作である『朗読者』について。

この作品は発表後にドイツ・アメリカでベストセラーになり、39カ国語に訳されたそう。2008年には『愛を読むひと』として映画化もされた。

おそらく映画版の方を知っているという方も多いだろうが、今回はこの原作について詳しく見ていくこととしたい。

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著者について

Von Roger Eberhard – Roger Eberhard, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=20494070

ベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink, 1944-)はドイツのビーレフェルト出身の作家だが、彼の専門は実は法学。大学で法律を学んだ後は、憲法裁判所の判事を務める。

現在フンボルト大学ベルリンで教鞭をとる彼は、1987年にヴァルター・ポップと共に推理小説『ゼルプの裁き』を発表。

彼の『朗読者』はドイツ語圏の作品で初めての、ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーリスト一位を獲得した作品だ。

あらすじ

出会いと朗読

15歳の主人公は黄疸を患い、学校からの帰り道で吐いてしまう。そんな彼を介抱したのが、偶然その場に居合わせた36歳の美しい女性ハンナ

彼女の魅力に惹かれた主人公は、彼女と肉体的な関係を結ぶようになる。ハンナは彼にベッドに入る前に小説を朗読するよう頼むのだった。

その後『戦争と平和』のような長編も、時間をかけて朗読する主人公だが、ある日突然彼の前からハンナは姿を消してしまう。

朗読をハンナのためにしなくなってからしばらく経ち、主人公が彼女と再会することができたのは法廷だった

法廷

43歳になったハンナは、かつて収容所にて看守として勤務し、そこでの行動が原因となり起訴されていた。

共に起訴されていた、看守時代の同僚からの圧力もあり、重要な報告書を自ら書いたことを自白するハンナ。

しかし実際のところ、ハンナは全くの文盲であり、読むことも書くこともできないのだった。

文盲であることを隠すため、彼女は罪をあえて負っていたのだ。彼女が主人公に朗読をねだったのも、そうした理由からだった。

ハンナの死

無期懲役が決まったハンナにあてて、主人公は本の朗読を録音し、カセットを送り始める。それから四年が経ち、文字を書けるようになったハンナから手紙が届く。

18年の刑務所生活の間、ハンナを訪問することのなかった主人公だが、彼女が釈放されるタイミングで刑務所に向かうことを決める。しかし彼は、その当日の前夜に彼女が首吊り自殺をしたと聞く。

ハンナが過ごした独房の様子を見ながら、所長の話を聞くことで、主人公は彼女がカセットを通して文字を学んでいったことを知る。

そしてさらに10年がたち、主人公は自分とハンナについての物語を書こうと思い立つのだった。

よみどころ

この作品の中心的なテーマはやはり、文盲のハンナとの「朗読」を中心にした関係と、彼女の過去についての裁判をめぐるシーンだろう。

今回はこの二つについて、僕自身の感想なども交えながらご紹介したい。

朗読

朗読者 Der Vorleser』というタイトルからもわかる通り、「朗読」という行為は作品の中で最も大切なもの。

とりわけ印象的なのは、聞き手ハンナの反応や作品に対して抱く本人の印象について、語り手が次のように語る箇所。

むしろハンナは彼らの世界に入り込んでいったが、それはまるで、感嘆しながら遠くの国々を旅行する人、あるいはどこかの城に足を踏み入れる人のような態度だった。

ベルンハルト・シュリンク(松永美穂訳): 『朗読者』、新潮社、2003年

朗読を通して、文字が読めないハンナが、全く新しい世界へと導かれる体験をしていることが、この箇所に良く表れている。

物語を朗読という手段でしか味わえないとするならば、きっとハンナが経験するような感覚を味わえるのかもしれない。

過去の克服

法廷でハンナと再会した主人公は、彼女がナチズム時代に犯した罪について責任を負わされる様子を目の当たりにする。

前の世代の行為を裁き、その過去を克服せねばならないという意識と、かつて愛した女性を思う気持ちがぶつかるはず。

しかし、毎日公判に参加する主人公を支配していた感情は、怒りでも悲しみでもなかった。

何週間にもわたる裁判のあいだ、ぼくは何も感じなかった。ぼくの感情はまるで麻痺してしまったようだった。

ベルンハルト・シュリンク(松永美穂訳): 『朗読者』、新潮社、2003年

こうした感情の麻痺状態にあっても、主人公は公判中のハンナの様子を細かく観察し、描写していく。

そしてさらに彼女の無期懲役が確定してもなお、彼はただ朗読を録音したカセットを送り続け、ハンナとの距離を取り続けます。

そうした、あえて距離を置く主人公の行動の中に、彼のハンナに向けた愛情や葛藤が表れているのだ。

さいごに

普段はドイツの古典に触れる機会の多い僕にとって、『朗読者』のような現代小説を読む機会はかなり稀だ。

大学で扱う書籍は、自然と古いものになってしまう傾向があるため、意識的に最近書かれた作品にも多く触れ、このBlogにて紹介していけたらと。

またシュリンクの他の作品もぜひ、読み進めることができればと考えている。

ぜひ読んでみてね!

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この記事を書いた人

ドイツ語講師を務めながら、ドイツ中世からバロックの文学研究中。主要な作家・作品についての記事を書いています。

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