ドイツで生活しているとき、日本が恋しくなったり現地での生活に嫌気が差すと、日本の映画などをNetflixで観ていました。
この『地面師たち』もまた、日本を思い出させてくれる作品の一つでしたが、観た時点では原作はまだ読めていない状態。
綾野剛の魅力的な演技に惹かれ、原作も読み進めることにしたのですが、映像化も頷ける作品でした。
著者について
1983年に東京都に生まれた新庄耕は、慶應義塾大学を卒業後、さまざまな職種を経験。
彼のデビュー作は2012年に発表された『狭小邸宅』で、第36回すばる文学賞を受賞することに。
Netflixにて『地面師たち』がドラマ化されると、一躍人々の注目の的となり、作品の続編や前日譚が刊行されていきます。
あらすじ
ある事件によって妻子を失っていた拓海は、ハリソン山中という人物の誘いにより地面師と呼ばれる土地を対象とした詐欺集団に入り、企業から大金を騙し取っていた。
その一方で、定年退職を目前としたベテラン刑事の辰は、かつて逃したハリソン山中へ至る手がかりを見つけようと調査を進め、その中で拓海と接触することに成功。
そして、自分の妻子を失うことになった事件の原因を作った男が、ハリソン山中と繋がっていることを辰から聞かされた拓海は、ある行動に出るのだった。
Point
詐欺師として

ある詐欺師のために人生が大きく狂わされ、そしてこの人物に対して強い憎しみを抱いているにもかかわらず、拓海はそうした詐欺行為に手を染めることに。
ハリソン山中への復讐に、自らが歩んできた道のりが繋がるときの拓海の驚愕は、物語にとって重要な要素の一つです。
物語終盤のハリソン山中と拓海の対話は、点と点が結ばれるような印象を与えるもので、ハリソンの怒りを掻き立てる挑発的な言葉も、その決着にぴったり。
原作との比較

作品を読むのが、綾野剛が主演を演じるドラマ版に興味を惹かれたから…という方も少なくない、いやかなり多いはず。
ドラマ版では池田エライザがベテラン刑事の辰の部下を演じ、最終的にとても重要な役柄を演じるのですが、原作では辰のみが活躍するなど、ドラマ版ならではな脚色が魅力。
両作品を比較しながら味わうのも良いですが、かなり大胆に手を加えられている箇所もあるので、原作から読む方にとっては驚きが大きいはず。
さいごに
今回、『地面師たち』という作品に触れるきっかけとなったのは、実は僕が書き進めていたピカレスク小説についての論文。
ピカレスク小説とは、悪漢小説とも呼ばれますが、スペイン由来の小説ジャンルです。その名の通り、主人公は悪漢として登場し、詐欺行為を行っていきます。
「詐欺師」というモティーフはおそらく、僕のドイツ文学の研究において重要なものとなるはずですので、いずれこのジャンルについても詳しくお話しますね。

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