【日本文学】和田龍『のぼうの城』〜愚か者の総大将〜

物語の舞台となった忍城 

今回ご紹介するのは、コミック・映画化もされた『のぼうの城』について。

忍城(おしじょう)を舞台とし、愚か者の領主である「のぼう様」を中心とする物語で、多くの読者を獲得。

ちなみに、2012年に公開された映画では、主演は野村萬斎、そして累計興行収入28.4億円を記録する大ヒットであった。

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著者について

大阪生まれの和田龍は、大学時代に読んだ司馬遼太郎の『龍馬がゆく』を通して歴史に関心を持ち始めた。

ドラマのADを経て新聞社に就職した和田は、業務の傍ら脚本の執筆を行い、『忍の城』が城戸賞に入選する。

2007年に『のぼうの城』が出版されたのち、『忍びの国』や『小太郎の左腕』、『村上海賊の狼』を発表していく。

あらすじ

三成

豊臣秀吉

物語は高松城に水攻めを仕掛けようとする秀吉と、彼にその能力を見出された三成との対話から始まる。

天下統一も目前、秀吉には倒さなくてはならない勢力、関東の北条氏がいた。そして秀吉は三成らに、北条家の支城である忍城を潰す命を下す。

わずかな戦力しかないこの城は、周辺を湖に囲まれる形で立っており、水の上に浮かんでいるかのような様子であった。

のぼう様

豊臣家の家臣、石田三成

視点は変わり、忍城の領主である成田家の家老丹波と、彼の従兄弟である成田家の当主、長親の様子が描かれる。

長親は百姓仕事を好み、不器用で無能であることから、百姓から「のぼう様」と呼ばれ、親しまれていた。丹波は幼い頃から知るこの長親を馬鹿者と呼び、苛立ちを抱いていた。

秀吉の軍勢は忍城を包囲し、使者である正家を通して降伏を求める。成田家は開城する心構えであったが、長親は正家に対し、皆の期待を裏切って開戦を宣言するのだった。

踊り

漆黒の魔人」と呼ばれる実力を持つ丹波や、他の有力な武将の活躍によって、敵軍の最初の攻撃から城を守ることに成功する長親の軍勢。

この城を水攻めで陥とすことに決めた三成は、短期間のうちに人口堤を作らせ、攻撃を実行する。兵の士気が下がるなか、降伏を拒み続けたのは長親であった。

降伏しようとした城内の百姓と女が殺されたとき、長親の様子は一変する。楽器を用意させた長親は、船の上で田楽踊を踊り始める。そしてこの踊りは、水攻めを破るためのカギとなる。

よみどころ

長親の愚かさと、彼が実際の戦で見せる機転が作品の肝となる。クライマックスとも言える長親の踊りのシーンには、長親の隠された能力が存分に表れている。

明晰な頭脳を持つ三成は、忍城の総大将について、彼を愚か者として見なしながらも、次のように考えている。

成田長親の持つ愚者としての一面が、強がりの家臣どもと、利かん気の強い領民どもの好みに見事に合致していることだけは確信できた。

和田龍: 『のぼうの城 下』電子書籍版, 小学館, 2010 (底本 第3版 2010 発行)

このことは水攻めを破るための重要な点であって、彼が愚者でなければ、三成による攻撃を直に受けていただろう。そして、彼の強みは単に周囲から好まれている点のみではない。

最終的には開城する結果となる戦であったが、長親が敵将との交渉で見せる態度にも、彼が愚かさの裏に持つ才が表れている。

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この記事を書いた人

ドイツの大学院にて文学研究中。ドイツ文学を中心に、主要な作家・作品についての記事を書いています。

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