【ドイツ文学】ドイツ文学とは?〜読みはじめる人のために〜

ドイツ文学とは何かを、あなたはどのように説明するだろうか。

単純に「ドイツで書かれた文学」と答えるかもしれないが、これはこれから説明するように、ドイツ文学の一側面でしかない。

それでは、僕自身が「ドイツ文学とは?」と聞かれたらどのように答えるだろうか。今回はこの点についてお話しすることにしたい。

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『ドイツ語の文学』

著作者:Rochak Shukla/出典:Freepik

ドイツ文学とは何か?僕であればこの質問にすぐ、「ドイツ語で書かれた文学」と答える。

「当たり前だ!」と考えるかもしれないが、日本文学と異なり、ドイツ語を使う地域はドイツだけでなく、スイスオーストリアも含まれる。そのため、僕らの感覚からすると少し特殊だ。

だが、この答えも完璧ではない。ドイツ語ではなく、中世のラテン語で書かれた文章もドイツ文学に組み込むべきかという問題があるためだ。1

ドイツ文学のはじまり

結局は、「ドイツ文学」というものを一概に定義することは難しい。それでもここでは、「ドイツ文学」についてのイメージを掴んでもらうために、大きな主題に分けて紹介することとしたい。

民族移動

2-5世紀の民族大移動 Von Novarte – Eigenes Werk, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43347110

まず上の地図を見ていただきたい。キャプションにもある通り、ゲルマン民族の大移動の軌跡が描かれている。民族が入り乱れて動く様子がわかるはず。

ドイツ地方に住みはじめた人々を「ドイツ人」と一般的に呼ぶが、そもそも「ドイツ」という概念が比較的新しいもので、民族移動時のドイツ地方を確定することなど不可能だ。

文学と同様、「ドイツ」そのものをはっきりとは定義しえないのである。このことを前提とした上で、これから「ドイツ」あるいは「ドイツ人」という言葉を使っていく。

最古のドイツ文学?

現在のドイツに住み始めたドイツ人は他国との文化的交流を盛んに行う。その中で生まれた最古のドイツ語文献について、代表的なものを二つここに紹介したい。

アブロガンス写本

アブロガンス写本の第一ページ

最古のドイツ語文献といえば、この『アブロガンス写本 Codex Abrogans』だ。

これは物語ではなく、ラテン語とドイツ語の辞書である。難しいラテン語とそれに対応するラテン語の同義語がまず書かれ、それらをドイツ語に訳したものが記されている。

この書物が書かれた年代についての正確な情報はないが、8世紀の後半に書かれたことが推測されており、現在はザンクト・ガレンの修道院に保存されている。

メルゼブルクの呪文

Merseburg, Domstiftsbibliothek, Cod. 136, fol. 85r mit den Merseburger Zaubersprüchen im oberen Teil (Zeilen 1–12). Digital kolorierter Scan eines Photodrucks aus dem 19. Jahrhundert

『アブロガンス写本』と並び、最古の文献に属するのが『メルゼブルクの呪文 Merseburger Zaubersprüche』であり、その名の通り、まじないや呪文をまとめたもの。

呪文はすでに8世紀以前に成立したものの、現在残されている写本は10世紀に書かれ、メルゼブルクの司教座聖堂参事会の図書館に保存されている。

収録された呪文は独特で、敵に捕えられた味方解放のための「身内生還の呪文」や、馬の怪我を治すための「馬の呪文」など、僕らが想像する「呪文」とは少し異なる。

また、ゲルマンの主神であるヴォーダン(北欧神話のオーディン)や、ゲルマン神話の戦いの乙女ヴァルキューレについての記述は、当時の民衆間でゲルマン神話がまだ根強く残っていた事を物語っている。

ドイツ文学の特徴

ドイツ文学のはじまりについて確認したあとは、この文学が持つ特徴について見ていくことにしよう。もちろん、全体に当てはまる特徴を探すのは難しいが、以下のことはおさえておきたい。

キリスト教

著作者:jcomp/出典:Freepik

神話について触れたが、ドイツ文学を知る上で重要なのが宗教の問題だ。ドイツではゲルマン神話は異教として見なされ、残された神話はわずか。その原因となったのが、ドイツのキリスト教化だ。

ドイツ文学について、キリスト教を無視して語ることはできない。中世の文学作品などはほとんど、修道院で書かれているためなおさらだ。この点でもやはり、日本の文学とは大きく異なる。

もちろん、宗教とは関係のない作品も多くある。だが、キリスト教と無関係な作家は皆無で、彼らは肯定や否定の態度をとって、この宗教に何からの形で関与している。

ドイツ文学に関わらず、欧米の作品を手にとる際には、ぜひキリスト教についての入門書なども読んでみるといいだろう。作品の根底にある宗教観は、作品理解の手助けになるはずだ。

難しい文学?

著作者:pch.vector/出典:Freepik

一番最初の質問に戻るようだが、ドイツ文学についてのイメージを人に聞くと、「難解そう」とか、「硬そう」なんて答えも返ってくる。

僕自身も最初は、そうした考えを持っていた。たしかに、難しい作品は多い。研究を本格的に始めてからしばらく経つ僕でさえ、哲学的な本を読む際は何度も挫折しそうになる。

それでも、読みやすい小説はそれ以上に多いだろう。例えば、僕が初めて手に取ったフランツ・カフカの『変身』は、すぐに読めて面白く、ドイツ文学への入り口としてぴったりなのでおすすめだ。

ただ、この短編も奥が深く、膨大な量の研究がなされている。一見(一読)すると簡単に読めてしまう小説も、読めば読むほど、その作品が持つ「深さ」が見えてくるはず。

歴史と政治

このことについては、ドイツ文学に限らず、あらゆる文学について言えることだが、ぜひ作品をその時代・政治背景に沿って読んでもらいたい。

例えば、ドイツ文学の数多いジャンルのうち、「ドイツ亡命文学」と呼ばれるものがある。これはナチス政権から逃れ、亡命することを選択した作家による作品を指す。

ノーベル文学賞を受賞し、日本でもよく知られるトーマス・マンもまた、亡命作家の一人。その代表作には『魔の山』などがあるが、それらの作品と当時の歴史・政治的な背景は切り離せない。

マンは一つの例に過ぎないが、単調に作品を読み進めて満足してしまう(それはそれで良いのだが)ことなく、作品に投影された執筆当時の状況を汲み取ることが大切だ。

さいごに

ここまで、「ドイツ文学とは何か?」という問いに焦点を当てて書いてきたが、この文学ジャンルに対して抱く印象は変わっただろうか?

最古の作品についても大切だが、とりわけここで紹介したドイツ文学の特色については、作品を読んでいくうえで、ぜひとも意識していてもらえれば嬉しい。

今後、時代ごとのジャンルの移り変わりに着目しながら、より具体的にドイツ文学の世界を見ていくことにしよう。

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この記事を書いた人

ドイツ語講師を務めながら、ドイツ中世からバロックの文学研究中。主要な作家・作品についての記事を書いています。

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