【ドイツ文学】フランツ・カフカ『変身』〜体が虫になった男の最期〜

1916年版の表紙イラストより

今回ご紹介するのは、フランツ・カフカの『変身』(Die Verwandlung, 1915)について。

カフカの作品の中でも、最も有名なものの一つである『変身』。僕が本格的にドイツ文学を学び始める際、初めて手に取った作品だ。

ある日目が覚めると、体が虫になってしまった主人公について描く物語は、その独特な世界観や「不条理さ」が特徴的。

作品のあらすじを見ていく前に、著者の紹介を簡単にしておこう。

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著者について

フランツ・カフカ(Franz Kafka, 1883-1924)はプラハを代表する作家。現在のチェコにあたる地域出身の作家だが、ドイツ語での執筆を行なっていた。

』(1922)など未完の作品も多く、これらはカフカの死後に友人マックス・ブロートによって発表された。カフカ本人はしかし、焼却処分を頼んでいたそうだ。

注目すべきは、独特なカフカ作品の世界観と、記事冒頭で触れたような「不条理さ」だろう。これらの要素から「カフカ的」といった言葉も生まれた。

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主な登場人物

  • グレゴール・ザムザ 物語の主人公で販売員。ある朝目が覚めると、体が虫になってしまっていることに気づく。
  • グレーテ グレゴールの妹で、兄の変身後に彼の世話を主に担当するが、時間とともにその熱心さは薄れる。
  •  5年前の倒産によって、多額の借金を抱えることになる。そのため一家はグレゴールからの援助を受けていた。

あらすじ

変身

ある朝グレーゴル・ザムザが目を覚ますと、自分の体が巨大な虫になっているのに気が付く。

グレーゴルが部屋から出てこないために心配した家族は、彼に呼びかけるも、聞こえてくる返事は人間のものではなかった。

ついに姿を現したグレーゴルの変わり果てた姿を見て、家族は恐怖のあまり混乱に陥る。その後、彼の世話を妹グレーテが引き受けることに。

家族

グレーゴルが虫になってからしばらくが経ち、彼の家族にも変化があらわれ始める。とくに、弱々しかった父は制服に身を包み、力強くなった。

この父はグレーゴルにリンゴを投げつけ、これが彼の体に食い込み、炎症を起こして彼を弱らせる原因となる。

困窮のため一部屋を三人の男に間借りさせるが、彼らを含む家族の前に現れたグレーゴルによって、この男たちは部屋の解約を宣言する。

衰弱しながらも、自分の部屋に追い立てられたグレーゴルは、その後息を引き取り、翌日その死体を家政婦が見つけるのだった。

Point

グレーゴルの独白

あらすじだけを追っておくと、なんとも悲しい結末の物語だ。だが、それは作品の一つの要素に過ぎない。

実際の文章を読んでいくと、そこにはちょっぴり、いやなかなかブラックなユーモアが込められている。カフカも笑いながら朗読したのだとか。

状況は悲劇的なのに、クスッと笑ってしまう。これは特に、グレゴールの独白に表れているようだ。

力持ちがふたりいれば──頭に浮かんだのは父親と女中だった──、十分だろう。ふたりが腕をおれのまるい背中のしたに差しこんで、ベッドから引きはがし、かかえたまましゃがんで、じっと見守ってくれるだけでいい。おれは床で寝返りを打つ。そのとき細い脚たちがちゃんと働いてくれると助かるんだが。(中略)そんなことを考えていると、こんなに困っているのに、ついニヤッとしてしまった。

フランツ・カフカ (丘沢静也訳): 変身/掟の前で 他2編 , 光文社古典新訳文庫, 光文社, 2007,  29-30頁. 

これはベッドから出ようとする際のグレーゴルの言葉。自分に起きた突然の変異で驚いているにも関わらず、どこか余裕が漂う。

作中には度々、グレーゴルのこうした心の声が挿入されている。緊迫した実際の状況と、彼の言葉のチグハグさが、独特な雰囲気を生んでいる。


虫になること

物語の核ともいうべき、グレーゴルの虫への変身。そもそもなぜ虫になってしまったのだろう。

主人公の変身理由について、カフカは作品の中で説明していない。むしろ、その不条理な変異をカフカは描きたかったのだろう。

ある日突然「不気味な虫になる」ことで、その変身がもつ理不尽さが強調されていくはずだ。これが可愛い小鳥だったらどうだろう?

カフカについての記事でも紹介したが、「カフカ的」ないし「カフカエスク kafkaesque」なる言葉は、カフカ作品に特有の「不条理さ」から来ている。

自分ではどうすることもできない、道理の通用しない世界。カフカの作品を読んだ時に感じる、不思議な感覚もまた、「カフカエスク」によるところが大きい。

さいごに

『変身』は僕にとって大事な作品だ。冒頭にも書いた通り、文学を始めるきっかけにもなったからだが、それだけではない。

独文科に入ってからも、ほとんどドイツ語を読めなかった僕がこのテクストにぶちあたり、努力して読んだ記憶があるからだ。

この記事を書くにあたって、当時のことを色々と考えていた。あの頃のドイツ語や文学に対する熱意を、これからもずっと持っていきたい。

最後までありがとう!ぜひ作品も読んでみてね。

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この記事を書いた人

ドイツの大学院にて文学研究中。ドイツ文学を中心に、主要な作家・作品についての記事を書いています。

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