今回取り上げる『ハムレットマシーン』(Die Hamletmaschine, 1977)はその名前が表す通り、シェイクスピアの『ハムレット』を下敷にした作品。
著者のハイナ・ミュラー(Heiner Müller, 1929-1995)は西ドイツでブームを巻き起こした劇作家であり、かのブレヒトと並ぶ重要な人物。
数十ページの短い作品だが、様々な作品の引用を取り入れつつ組み上げられ、その内容はとても重厚だ。
著者について

ザクセン州出身のハイナ・ミュラーは、ジョン・リードによる『世界を揺るがせた十日間』を舞台用に翻案したことでデビュー。
妻インゲと共同で著した『賃金を抑える者』によって、ハインリヒ・マン賞を獲得するも、政府との軋轢が顕著になっていく。
1970年以降は西ドイツへと活動の場を広げていくミュラーは、1977年に『ハムレットマシーン』を発表し、彼の劇作家としての名声を確固たるものにした。
あらすじ
『ハムレット』を下敷きにしているとはいえ、無数の引用の織物とさえ見える『ハムレットマシーン』に、一貫したストーリーはない。
それは訳者の谷川氏が述べるように、ミュラーの「読み」をもとに構成された作品であるためであるが、そこには現実の社会情勢や他の文学作品の影響が色濃く見られる。
作品の冒頭にあたる「家族のアルバム」では、役者と見られる人物が「私はハムレットだった。」と語る。
これに続き、ホレーシオやオフィーリアといった者たちが登場するが、彼らの発言はみなコラージュ的かつ難解なものだ。
Point
「HM」というイニシャル

作品がミュラーの「読み」を軸に構成されたことについては、すでにあらすじの中で紹介した。そして、まず目を向けておきたいのはその「HM」というイニシャル。
ミュラー自身が東ドイツにて置かれていた状況が、作品にも色濃く影響している点も、その「HM」というイニシャルによって結びつけられる『ハムレットマシーン』とミュラーの繋がりを感じさせる。
「ミュラーの 〈読み〉が一方で『ハムレット』を骸骨にまで還元してしまう」という谷川氏の解説通り、この作品はミュラーのテクストとの関わりを考えながら読んでいく必要がある。
『ハムレットマシーン』はそのイニシャルが示す通り、ハイナ・ミュラー自身と重なるものであり、この点を忘れてしまうと物語を理解するのが途方もなく困難になる。
さいごに
ドイツの現代文学、とりわけ劇作品となると、ブレヒトがまず初めに頭に浮かぶ。この人物に代わるようにして東ドイツの演劇界に現れたのが、ミュラーだ。
とはいえ、二人の作風は大きく異なるもので、果たしてミュラーをブレヒトの後継者として位置付けるのが、どれだけ正しいかは怪しい。
ブレヒトの作品についても、必ず近いうちに紹介していく予定。両者の比較なども、少しできればと考えている。

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