
神話に興味があるけど、どの本がいいかな…



有名なエピソードをたくさん集めた『変身物語』がオススメ!
一度読めばきっと、「変身」というテーマにすっかり魅了されてしまうだろう。
古代ローマの詩人オウィディウス(BC43-AD17/18)の『変身物語』(Metamorphōseōn librī)では、ローマ神話の登場人物による「変身」を軸に物語が展開する。
その中には僕たちが聞いたことがあるエピソードがたくさん。「あ、これ知ってる!」と考えながら読み進めるのも楽しい。
- オウィディウスについて
- 変身物語の概要
- 一部のあらすじ
- 作品のPoint
著者について


紀元前43年生まれのオウィディウス(プーブリウス・オウィディウス・ナーソー)は、ローマの東方にある集落で生まれた詩人だ。
彼はアウグストゥス帝の治世のもとで詩作を行い、詩人としての名声は高かったものの、アウグストゥス帝自身の命によって黒海西岸へと追放される。



追放の理由はまだ明らかではないらしいよ!
代表作は『愛のさまざま』や『色道教本』に代表される恋愛関連の詩作品や、今回取り上げる『変身物語』のような物語もの、そして追放後に書かれた『悲しみの歌』などの嘆きの詩だ。
作品について


作品は語り手による神々への呼びかけから始まる。それは、物語を世界の初めから現在(物語内での)まで、途絶えさせることのないようにというもの。
その後は作品名の通り「変身」が主題となっており、この軸に沿って次々とギリシア・ローマ神話の登場人物について語られていく。
小さなエピソードが連なっているため、全体のあらすじを紹介することは難しいが、ここでは僕が個人的に気になったものを紹介していこう。
ユピテル


物語のはじめ、世界の始まりや人類の誕生、父なる神ユピテルについて語られる。ギリシア神話のゼウスにあたる神だ。
ユピテルは他の神々よりも上位にいる存在であり、雷を自在に操ることができた。この力を用いてユピテルは、空高く山々を積み重ねようとした巨人族を罰する。
山に押しつぶされた巨人の血は大地に生命を与え、そこから人間が生まれた。彼らもまた巨人同様に不遜であったため、ユピテルは人間を滅ぼそうと考える。
しかしこの神は、雷火が天上にまで燃え移ることを危惧し、海神ネプトゥーヌスの力をかりて、水による人類の殲滅を図るが…
エコー


河神ケピソスは、ニンフのレイリオペに暴行を働き、彼女は河神の子をその身に宿す。そして生まれたのが、とても美しいナルキッソスであった。



ニンフとはギリシア神話に登場する妖精のことだよ!
ナルキッソスは16歳を迎え、若者や娘たちが彼に言い寄るが、誰も彼の心を動かすことはできなかった。ニンフのエコーもまた、彼に恋心を燃やす。
こだまのエコーはユピテルの妻ユノーによって、相手の話の最後の部分のみを話すことができるようにさせられてしまっていた。
エコーはナルキッソスの首に腕を巻きつけようとするも、彼は彼女をはねつける。エコーは悲しみに暮れ、残ったのは彼女の声だけとなった。
カエサル


実在の人物では?と思われる方も多いはず。その通り、「ブルータス、お前もか」で有名なローマの政務官であり、彼もしっかり変身する。
それもただの変身ではない。神になるのだ。そしてこのエピソードは、作品の最後に収録されたものであり、それだけ重要な意味を持つはず。
数々の功績を立てたカエサルだが、その最たるものは皇帝アウグストゥスの父親であったと語り手は語る。そのため神化に与ることになったが、同時に彼の暗殺計画が進行中であった。
ウェヌス女神は、彼を雲の中に隠そうとするが、彼の父ユピテルはこれを引き止める。そして女神は、死にゆくカエサルの魂を救い出し、天の星々のもとへ運んでいく。
Point
いくつかのエピソードについて紹介してきたが、正直なところまだまだ紹介したい物語がたくさんある。
だが、ここからは僕が作品を読むうえで重要だと感じたことについて、少し書いていくことにしたい。
ユピテルと愛


作品に収録されたエピソードの多くは、人間や神々の愛についての物語だ。
先ほど紹介した父なる神ユピテルもまた、愛というよりは、情事を重ねた神として有名だ。后ユノーはユピテルの不貞に怒りを燃やすなど、どこか人間らしい。
雷電を自在に操り、さらに天界を管理するなど、偉大な支配者としての顔を見せるユピテル。妻に隠れ、多くの乙女の純潔を奪う姿とは対照的だ。
もちろん、ピグマリオンのような愛の物語も魅力的だが、変幻自在のユピテルが愛欲のために不貞を繰り返す様子は、作品のスパイスとなっている。
語り手のことば


カエサルについての物語が終わったのち、「いまや、わたしの作品は完成した。」という言葉から始まる、語り手のあとがきが始まる。その最後の一文を挙げてみよう。
もし詩人の予感というものに幾らかの真実があるなら、わたしは、名声によって永遠に生きるのだ。
オウィディウス (中村善也訳): 『変身物語』(下), 岩波書店, 1984, 345頁.
作品を翻訳した中村は、このあとがきの中でオウィディウスが自らの「神化」を表現しようとしたと書いているが、そこまでは確かではなさそうだ。
僕が引用した一節を読んだとき、オウィディウスが執筆を終えた時に感じていたその予感が、確かなものであったことを思って感動した。
『変身物語』という作品を通して、そこに描かれる神々の物語が長く広く語り継がれていくのみではない。オウィディウスの名や、その詩人としての精神もまた、不滅のものになったのだ。
さいごに
西洋古典編の第一弾として取り上げた『変身物語』、純粋に内容を楽しむのもありだが、絵画鑑賞をより一層楽しいものにしてくれるはず。
今までは背景知識がないまま観ていた神話を題材とした絵画も、この作品を読んだ後であれば、よりよく内容を理解できるだろう。
また、他の文学作品の中でも『変身物語』に拠るものは多い。神話に関心がある方はもちろん、そうでなくても一読しておくことを薦めたい。



最後までありがとう。この作品もぜひ!



